女将リトリート
インターンシップレポート

黒湯温泉
池田 佳子さん

女将

秋田県出身。黒湯温泉のオーナーで、以前は宿の運営は他の方に任せていたが、現場を切り盛りしていた番頭夫婦が辞めることになり突然女将業をすることに。東京で専業主婦をしていたが、秋田へ戻り経験のない接客・女将業をして今に至る。

グローカルプロモーション(株)
佐藤奈央維

ファシリテーター

乳頭温泉郷を駆け巡る「みんなの御用聞き」的な存在。

1. 秋田での働きやすさを感じることはありますか?

女将
私は東京で働いていなかった(専業主婦)のですが、どうしても子供を預けたいときに預けるところがありませんでした。電車で知り合いの所まで預けに行くのも大変で、ベビーシッターを使ったこともありました。その点秋田は、預かってもらえそうな人が周りに多いと思います。車社会なので、預かって頂けるところまで車で連れていけますしね。何処も駐車場が広いし、無料の所も多いし、そういった面では子育てしながらでも割と働きやすいと思います。
佐藤
移住者の方は知り合いがはじめはいない方もいるかもしれませんが、地域に溶け込んだ際のコミュニティーとの接点があればお願いできる先はあるかなというイメージですかね。
女将
そうですね。

2. 女将の仕事とは、どういったことでしょうか。

女将
最初女将と呼ばれること自体すごく抵抗がありました。結婚してからはずっと普通の主婦をしていましたから。
佐藤
では先に、女将になった流れというのを聞いても宜しいですか?
女将
元々ここは主人の実家で経営している旅館ですが、運営をほかの方に全てお願いしていたのでまさか私がここで働くとは夢にも思っていませんでした。会長(女将の旦那さん)が仕事を退職して、時間ができたので実家で経営しているここの旅館に足を運ぶようになりました。私もたまにきてちょっとしたお手伝いはしていたのだけど、やらざるを負えなくなっちゃって、そこからどっぷりと…!
佐藤
従業員さんは引き継いで、運営していた方がいなくなられたということですか?
女将
そうです。だから今まで他の旅館に泊まった時にどうして「女将さん」というものを見ていなかったのだろうと後悔…どうしたらいいかわからなかったです。でも従業員さんが残っていてくれたので皆様に助けて頂きました。それで何とか回して、そこから女将業を始めました。でもずっと葛藤がありましたよ。なんで私がここでこんなになっていなきゃいけないのだろうとかね。
佐藤
そういうつもりでずっとやってきたのとは違いますからね。
女将
でもお客様に対しては絶対失礼があってはならないし、従業員さんの足も引っ張ってはならないし、とにかくみんなで協力しました。今でも協力してできることをそれぞれやっています。会長だってお洗濯もするし、お掃除もするし、だから私もお皿洗いだってするし、とにかく手が空いてればみんなが手伝うのが当たり前。人に恵まれてよかったなって思います。
佐藤
女将と一言でいっても、お宿によって女将の雰囲気も違いますね。
女将
各宿で女将という立場が全然違うと思います。うちはとにかく仲良くしていたい女将です。従業員さんの笑い声がなければやっていけないです。だから私が外にいるときに中から笑い声がすると、嬉しくて私も笑っちゃいます。
まずは従業員さんが幸せで楽しくなければ、それをお客様にも与えられないと思っております。
佐藤
従業員さんが心地よく過ごせるように配慮も含めて、女将業ということですね。
女将
まだまだですよ。従業員さんの方が嫌だなとか面白くないなとかやっていたら旅館業はいいものにはならないのではないかなと思います。

3. その他の業界の接客業と旅館接客・女将業は何が違うか?

女将
レストランも旅館も、おいしいもの食べたいなと思って来ている方に美味しいものを提供し、気持ちよく接客をして、「ありがとうございました!またお越しください。」とお見送りするのは同じですが、旅館業の場合は宿に泊まってご入浴もしていただくので、24時間体制での対応をしなければなりません。大変なところに足を踏み入れてしまったなと思っております。笑
佐藤
そうですね、旅館はいろんな分野において接客の種類が多いですよね。
女将
そっとしておいてほしいお客様もいらっしゃるし、私たちとすごく会話したい人もいらっしゃるし、そこがやっぱり難しいですね。あまり長話してもお連れ様がもしかしたら嫌な思いするかもしれないし…。
佐藤
お客様のタイプを見極めて接客しないといけないということですね。
女将
普通に気が付くこと以上に、“どうしてほしいのかな”を察することが出来ればすごくいいなと思っています。でもそれは努力しても難しいことですので、その時は“自分だったらどうしてほしいかな”というのはよく考えますね。

4. 人生の途中から旅館業をやることになりましたが、古き良き温泉文化を継承していくことで大切にしていることは何でしょうか?

女将
350年くらいの歴史はありますが、温泉は神様から頂いたものです。自分で作ったものではなく、大地から頂いた恵みだと思っております。もしかしたらなにか自然災害があって駄目になってしまうかもしれませんが、そうでない限りはとにかく温泉を好きな方、温泉を良いねと言って下さる方が大勢いるってことがここにいてわかりましたので、とにかく温泉は絶やせないなということ。あと、この古い建物です、かやぶき屋根とかを維持するのはとても大変なことですが、日本昔話風の風景があっての黒湯だと思います。その代わり内装は清潔にして、トイレもきれいに改装していかなければなりませんが、外側の雰囲気を絶対残していかなければならないと思っております。

5. 思っていた職業に就けていない人が多くいると言われています。その方たちも含め、宿泊業で働く魅力を教えてください。

女将
この仕事をして分かりましたが、旅館での仕事は全部できなくても得意・不得意があってそういう人を必要としている場所だなと思います。例えば大工仕事が得意、お料理に興味がある、電気のことなら詳しい、体力には自信ある、人とお話するのが好きだとか、そういうことよりも一人黙々やるのが好きとかですね。 “あれもこれも全部できます”とかでなくていいんです。旅館業は自分の好きな分野を磨きかけられる場所だと思っています。お客様もいろんな方がいらっしゃるので、人生のことで迷っていることとか、会話しているときにいいヒントもらえると思いますよ。日本から出て海外で活躍している方もいらっしゃれば、お子様といらっしゃる方、お仕事頑張っていらっしゃる方、色々な職業の方がいらっしゃるのですごくいい出会いがあるかもしれないですね。特に迷っている人にはいいと思いますよ。
佐藤
オフィスでずっと座っている仕事だけではなく、あれもこれもやってみて人とも話してみたら、なんだか自分こういうことが好きかもしれない!という発見があるかもしれないですね。
女将
そう、そういう仕事だと思います。

6. 仕事をしていて印象に残ったエピソードがあれば教えてください。

女将
外国の方がハネムーンで来て下さる方もいらっしゃいますが、ある日、台湾からいらした女性がうちの坂道で転んで足の骨を折ってしまいました。その時は足の骨が折れているとはわからなかったので男性が頑張ってささえて連れてきました。たまたまお客様の中にお医者様がいらっしゃって、診ていただき骨が折れていることが分かったので、すぐに救急車を呼んで、私たちも一緒に病院に行きました。結局うちには泊まれませんでした。そしたら次の年に、その時にバスタオルを貸していたのですが、バスタオルを持ってまた来てくださいました。「もう!すぐにハグしてしまいました」その後、転んだ場所で泣いた真似をしている写真をフェイスブックに載せていたのを見つけとても可愛かったです。
佐藤
その方達からしたら旅先での大変な出来事だったのに、対応次第でいい思いになったということですね。とても感動しました。
女将
あとはスタッフの方たちへのお礼の言葉も多いです。スタッフの方たちの挨拶がよかったとか言葉掛けが気持ちよかったとかですね。お客様からお手紙を頂くこともあり本当にありがたいです。
佐藤
お礼や声掛けだったり、チェックインのときとチェックアウトの時で会話が深まっていたりだとか、毎年この時期に来るリピーターのお客様がいたりとか、その人たちの顔見てほっとしたりとか…そういうのがずっと続くというお仕事でしょうかね。
女将
そうですね。

7. 宿泊業の魅力、おすすめしたい点、PRなど最後に教えてください。

女将
何が好き、何が得意、得意なことがなくてもどんな方でもこちら側としては助かることがたくさんある職業だと思います。また黒湯温泉の場合は11月から4月まで冬季休暇に入るのでワンシーズン経験したいなという方に来て頂いても大丈夫です。また来年来たいなと思ったら来て頂いてもいいし、半年くらい山の中で温泉入りながら世代が違う人と働いてみて、それでやっぱり自分は都会に出て働いてみたいという夢が見つかるかもしれないですし。そういう感じでいらしていただいても全然構いません。スタッフの中には、冬山カメラマンさんもいらっしゃって、冬は山に登って写真を撮っていますよ。
佐藤
ということは、乳頭温泉郷では多様な人を受け入れてくれる職場環境があるということですね。
女将
そうですね。例えば、ここにずっといてお金を貯めて、冬は海外旅行に行ったり、自分の好きなことやったりするのもいいですね。
佐藤
様々な良いお話が聞けました!ありがとうございました!

*乳頭温泉郷の他のお宿は通年営業ですので、雇用契約は通年です。

前例にとらわれない多様な視点を取り入れる工夫

女将リトリートのヒアリングで得られた意見の例

女将のお話を聞く前と聞いた後で仕事に対する意欲や理解、気持ちに変化はありましたか?

女将

宿泊業はこれからの人生を考える時期にある若者にも適当だと思う。

なぜなら…

  1. 様々な業種・経歴・人柄の人と出会えるから
  2. 業務内容が多岐に渡るためどんな人でも必要とされるから
    (食事の準備・配膳、客室清掃、事務作業、広報、接客など)
インターン生

上記の話が印象的だった。

単純作業で退屈に感じた時期もあったが、女将の話を聞いて
どんな仕事や労働環境、どんな時に自分はやりがいや楽しさを感じるのか
また、何が苦手で何が得意なのか、
一緒に働く人やお客さんが何を求めていて何が足りていなくて
どうすればより快適に過ごせるのか意識し始めた。
毎日の同じことの繰り返しに思える業務も、冒険のようで楽しくなった。

一番印象深かった業務はなんでしたか?(業務環境・内容)

インターン生

女将さんの仕事ぶり。宿の経営と働く人の環境とお客さんにとって何が良いかのバランスを上手にとりつつ、 臨機応変にいろいろな判断を即座に下している姿に感銘を受けた。

想像と違っていた!というようなギャップはありましたか?(現状把握)

インターン生
  1. 働く人同士のコミュニケーションが多くて、人として同僚と関われたこと
  2. 良い生活リズム、習慣で過ごせたこと。
  3. 従業員の旅館への愛着
  4. 人によって作業効率が違う点が目についた

若い人たちが乳頭温泉郷で仕事をしたいと思えるようなアイディアはありますか?(発展)

インターン生
  1. 身体も心も健康になれる勤務環境をPR
  2. 毎日の温泉やお客様との関わり合いなどの楽しみがあることをPR

インターンシップをして感じたこと、得たことなど感想を教えてください。(価値)

インターン生
  1. 働き方、休み方、生き方を考える良い機会
  2. 単純作業も楽しめる
  3. お金をためやすい
  4. 秋田を楽しめる

前例にとらわれない多様な視点を取り入れる工夫

インターン生のレポートフィードバックを受けて

女将にとって若者が働くことに対するニーズを知れましたか?

女将

黒湯温泉では従業員の高齢化が課題となっております。
年齢による体力面、新しい事への苦手意識問題

そこにインターンシップの若い方にお手伝い頂きちょうど凹凸が埋まり絶妙でした。

旅館業では幅広い年齢の人材がいた方が仕事面でも精神面でも相乗効果が高まり
お客様にもより良いサービスが提供できると実感しました。

「会いに行く、乳頭温泉郷」